【推奨・リコメンデーション】Eye problems in mountain and remote areas: prevention and onsite treatment–official recommendations of the International Commission for Mountain Emergency Medicine ICAR MEDCOM

原文リンクはこちら: https://journals.sagepub.com/doi/10.1580/08-WEME-REV-205R1.1?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

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今回は山岳環境や僻地における眼の健康問題の予防と治療について書かれた論文“Eye problems in mountain and remote areas: prevention and onsite treatment–official recommendations of the International Commission for Mountain Emergency Medicine ICAR MEDCOM”をご紹介します。

【山岳環境における主な眼科的問題】

①紫外線曝露と雪眼
紫外線曝露量は標高の上昇に伴って増加し、雪面や水面からの反射によってさらに紫外線曝露量が増えます。紫外線量について3つのポイントがあります。

  • 紫外線量は標高が300 m上昇するごとに約4%増加
  • 雪面からの紫外線反射量は、草地と比較して約8倍
  • 標高2,000 mの積雪環境では、海抜0 mと比較して紫外線曝露量が約2倍になる場合がある

急性の紫外線曝露は、雪眼を引き起こします。主な症状は、強い眼痛、羞明、流涙、眼瞼けいれん、異物感などが言われています。症状は通常では、曝露後4〜10時間で出現し、12〜48時間以内に改善しますが、重症例では数日間持続する場合があります。

慢性的な紫外線曝露は、翼状片、瞼裂斑、白内障などと関連すると言われています。

②高所における眼科的問題
高所の低酸素環境や気象条件は、角膜および網膜の両方に影響を及ぼします。

  • 角膜への影響
    低酸素による角膜浮腫
    涙液蒸発の増加によるドライアイ
    特に角膜屈折矯正手術後に生じる視機能障害
  • 網膜への影響
    高所網膜出血(多くは無症候性)
    黄斑部に出血が及んだ場合の重篤な視力障害
    一過性単眼視力消失、皮質盲、網膜剥離などのまれな報告

一方で、高所網膜出血と急性高山病(AMS)の関連については、明確な結論が得られていません。
いずれにしても、高所で原因不明の視力障害が発生した場合には、下山と受診が必要と考えられますが、全身状態が良好で、無症候性の網膜出血のみが認められる場合には、必ずしも下山を必要としないと考えられます。

③コンタクトレンズに関連する問題
コンタクトレンズ使用者は、高所での低酸素、乾燥、衛生管理の困難さによって眼科的合併症を起こしやすくなります。主な合併症には、角膜浮腫、眼刺激症状、角膜上皮びらん、微生物性角膜炎などがあります。

この論文では以下の対策を推奨しています。

  • 連続装用型コンタクトレンズの夜間使用を避ける。
  • 可能であれば、1日使い捨てタイプのコンタクトレンズを使用する。
  • 眼の不快感や異常が出現した場合には、直ちにコンタクトレンズを外す。

④既存の眼疾患や眼科手術歴

  • 眼科疾患の既往や眼科手術歴のある登山者には、特別な注意が必要です。
  • 放射状角膜切開術(Radial Keratotomy:RK)
    低酸素による角膜浮腫により、遠視となり、重篤な視力障害につながる可能性があります。
  • レーシック
    高高度や極地環境において、一過性の近視化が報告されています。
  • 網膜手術後の眼内ガス
    網膜剥離手術などで眼内にガスが残存している場合、標高上昇に伴うガスの膨張によって眼圧が上昇し、不可逆的な視力障害を生じる危険性があります。したがって、眼内ガスが残存している間の高所への移動は禁忌です。
  • 網膜疾患の既往や強度近視
    遠征登山前に眼科専門医による診察を受けることが望ましい場合があります。

【現場での評価と治療】

病態治療
雪眼暗所での安静、閉眼した状態での冷却、鎮痛薬、NSAIDs点眼薬。必要に応じて抗菌薬眼軟膏
角膜上皮びらんコンタクトレンズの除去、鎮痛、必要に応じた抗菌薬点眼、経過観察
表在性眼内異物清潔な水による洗浄、安全に除去可能な場合は慎重に異物を除去
眼球穿孔が疑われる場合眼球への操作を避け、圧迫せずに保護し、適切な全身抗菌薬投与と緊急搬送
重度の鈍的眼外傷眼球を保護し、緊急搬送
高所での視力障害下山および医学的評価
コンタクトレンズ関連
の眼刺激症状
レンズ除去、人工涙液などの点眼、症状が持続する場合は感染症を考慮

ほか、論文では角膜損傷に対する日常的な眼帯の使用を推奨していません。その理由として、眼帯によって治癒促進や疼痛軽減が得られるとは限らず、感染リスクが増加する可能性があることを挙げています。また、局所麻酔薬の反復点眼は角膜治癒を遅延させる可能性があるため、原則として避ける他方が良いと考えます。角膜上皮びらんの発生後、24時間以上にわたり眼の不快感が持続する場合には、感染症や異物の残存を疑う必要があります。

【予防】

  • 眼外傷の危険性がある場合は保護眼鏡、またはゴーグルなどの適切な眼の保護具を着用すべきとされています。
  • 積雪環境や山岳環境で活動するすべての人は、紫外線を完全に遮断する高品質のサングラスを着用することが必須です。
  • つばのある帽子も紫外線曝露を軽減し、快適性を向上させます。
  • 特に、小児は特に紫外線に対する眼の感受性が高くなります。
  • コンタクトレンズ使用者は、登山計画を慎重に立て、前述した問題に対処できるよう準備しておく必要があります。
  • 特に、レンズの洗浄と眼感染症の予防に十分な注意を払わなければなりません。眼の乾燥や刺激症状を防ぐためには、潤滑点眼(人工涙液など)を頻回に使用することが望ましいが、実際の山岳環境では必ずしも容易ではないことがあります。特に高所では、連続装用型コンタクトレンズの使用を避けるべきである。コンタクトレンズの保存液や洗浄液、潤滑点眼薬などの液体は、凍結を防ぐため、寝袋の中に入れて保温する必要があります。
  • 山岳地域や原野などの遠隔地では、度の入っていない保護用サングラスやスキーゴーグルに加え、予備の度付き眼鏡やサングラスも携行する必要がある。また、抗菌点眼薬や抗菌眼軟膏も携行すべきです。
  • 網膜剥離の手術歴がある人は、いつから高所への登山を再開できるかについて、手術を担当した眼科医に相談する必要があります。

【臨床的な推奨】

1. 予防が最も効果的な対策となります。適切な紫外線防護機能を備えたサングラスや保護ゴーグルの使用により、多くの山岳関連眼科疾患を予防できます。

2. 軽微な眼科的問題でも重大な山岳事故につながる可能性があります。一時的な視力障害であっても、ルート判断、歩行、下山、同行者の安全に影響を及ぼ可能性があります。

3. 眼球破裂が疑われる場合には、直ちに緊急搬送を行う必要があります。眼球への圧迫や不用意な操作、刺入異物の除去は避けましょう。

4. 高所での視力障害には特別な注意が必要です。原則として下山を推奨します。ただし、無症候性の網膜出血のみの場合は、必ずしも下山を必要としません。

5. コンタクトレンズ使用者には追加的な予防対策が必要です。乾燥、低酸素、衛生管理の困難さによって、角膜障害や感染症のリスクが増加します。

6. 眼科手術歴のある登山者では、高所特有のリスクを考慮しなければなりません。特に、網膜手術後に眼内ガスが残存している場合には、高所への移動は禁忌となります。

【結論】
本論文では、山岳・僻地における眼科的問題は、多くの場合軽症であるものの、登山者個人の安全や遠征全体に重大な影響を及ぼす可能性があることが強調されています。

一般的な眼科的問題の多くは、適切な眼の保護、事前準備、環境リスクへの理解によって予防可能です。

眼科的異常を早期に発見し、適切な現場処置を実施することが重要であり、重度の眼外傷や原因不明の視力障害に対しては、迅速な救助搬送または下山が必要となります。

上記の内容についてご自身の眼科的問題について心配な場合は、必ずかかりつけ医もしくは眼科医にご相談ください。


引き続きJMMC 日本山岳医療協議会では山岳医療、野外医療の関わるガイドラインや論文を紹介してまいります!
(原則、毎週金曜日更新)

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この記事を書いた人

日本山岳医療協議会JMMC代表

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