
原文リンクはこちら: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37833187/
先週7月10日から複数回にわたって高山病に関するWilderness Medical Societyのガイドラインをご紹介しているコーナーの第2回目となります。
前回は高所の定義や高山病の総括についてお話ししました。今回は急性高山病や高所脳浮腫、高所肺水腫の予防と、専門的医療行為外での対処について細かな部分を見ていきたいと思います。
ではさっそくこのガイドラインの続きを見ていきましょう。
【今回のガイドラインについて】
本ガイドラインは、2010年に『Wilderness & Environmental Medicine』に掲載された「急性高山病の予防と治療に関するWMSコンセンサスガイドライン」、および2014年と2019年に同誌で「急性高山病の予防と治療に関するWMS実践ガイドライン」として発表された改訂版を更新したものとなります。
【急性高山病(AMS)および高所脳浮腫(HASE)】
●予防
急性高山病(以下、AMS)および高所脳浮腫(以下、HACE)の予防として提唱されているものについてお話しします。
・段階的な登高。
1日あたりどのくらいの上る標高に止めるかは急性高山病を予防する上で極めて効果的な手段であると言われています。しかしながら、高所への順応の速度や生理的反応は個人によって大きく異なるため、一般的には効果があると言ってもすべての高所登山者においてAMS・HACEの予防になるという保証はありません。
AMSおよびHACEの予防方法においては、高地へ登山する個人のリスクや個人特性を考慮すべきと言われるものの、残念ながら急性高山病のリスクを予測することは困難であるといわれています。低酸素状態での運動負荷試験中に得られた数値と既往歴や現病歴を組み合わせて予測するモデルや、登山計画上の獲得標高で経験する低酸素の累積量を検討するモデルなど、いくつかの予測モデルが提案されていますが、複数の要因が絡むため、一般的な適用には限界があります。このため、より柔軟に登る高を調整する方法が推奨されています(本文記載)ただし、仮にAMSの既往があっても、必ずしも次の登山においてリスクが高いとは限りません。つまり、上昇速度を遅くしたり、目標標高を低く設定することで、急性高ジャン病の再発を回避できる可能性があるからです。同様に、過去の登山で問題がなかったからといって、次回の高所登山における急性高山病のリスクが低いとは限りません。登高速度が速くなったり、目標標高が高くなったりすると、AMSを発症しやすくなる可能性があるからです。
すべての登山者にとってAMSを予防するために最優先すべきことは、目標標高まで徐々に登ることです。たとえば、標高3000 mを超える地域へ登山する場合、次に滞在する標高までの差を1日あたり500 m以上上げないようにし、3~4日ごとに滞在日(滞在地点より高い標高での就寝を伴わない日)を設けるべきです。滞在日がAMSのリスク低減に有効であることを具体的に示した報告は1件のみであるものの、この概念は全体的な登高速度を遅らせ、それによって順応のための時間を確保するため有益であると考えられている。しかし、滞在する場所の制約やアプローチの方法からこの1日あたりの獲得標高を500m以下にすることは必ずしも容易ではないことから、全体で平均した総合的な獲得票効率(すなわち、総標高上昇標高を旅程中の登高日数で割った値)が500 m/日を下回ることを確保するようにし、それに合わせて、高所順化日を設けることを強く検討すべきであると言われています。
●治療(専門的医療を除く)
AMSおよびHACEに対する潜在的な治療法には、以下のものがあります:
・標高を下げる
標高を下げることは、AMSおよびHACEに対する最善の治療法です。地形や、天候、または負傷により下山が不可能な場合を除き、症状が解消するまで標高を下げる必要があり、通常、標高を300~1000 m下げることで症状は解消しますが、必要な下山標高は個人によって異なります。特にHACEを患っている場合は、単独で下山してはなりません。
・酸素補給
症状を緩和するのに十分な流量で、鼻からまたはマスクを介して酸素を供給することは、下山に代わる適切な手段となります。SpO2(パルスオキシメーター酸素飽和度)が90%以上であれば、通常は十分と考えられます。酸素の使用はすべての状況で必要とされるわけではなく、一般的には供給が豊富にある山岳診療所や病院に限定されます。また、下山が必要なもののそれが不可能な場合や、重篤な状態の患者が下山中にいる場合にも使用すべきです。酸素補給は、特定の吸入酸素分画(FIO2)ではなく、SpO2が90%以上になることを目標として行うべきである。酸素の供給方法については2時間以上継続して低流量酸素(1~2 L/分)を使用することは、短時間(数分間)に大量の酸素を投与するよりもはるかに大きな効果をもたらします。そのことから、短時間でしか供給できない市販の酸素ボンベ(医学的なものではない短時間仕様のもの)の使用については、AMSの治療法として研究されたことはなく、この目的でこれらに頼るべきではないといわれています。
【高所肺水腫(HAPE)】
高知肺水腫(以下、HAPE)の疫学、臨床像、および病態生理に関する情報は、その大部分が
成人を対象とした研究に基づくものであり総説で報告されています。HAPEの予防法や治療法の一部はAMSやHACEと同様ですが、根本的な病態生理が異なるため特定の予防方法および治療方法が必要とされる。
●予防
HAPEの予防策には、以下のものがあります。
・段階的な登高。
獲得標高率を制限することがHAPEを予防になるかどうかを前向きに評価した研究はないものの、登高速度とHAPEの発症率との間には明確な相関関係が存在しています。
・推奨されるHAPE予防のための方法
高所への順応速度や高所に対する生理的反応は個人によって大きく異なるため、以下の内容は一般的に有効であるものの、すべての高所登山者において予防を保証するものではありません。HAPEを予防する主な方法は、やはり段階的な登高です。すでにAMSおよびHACEの予防に関して示した推奨事項は、HAPEの予防にも適用されます。
●治療
HAPEの治療法には、以下のものがあります。
・標高を下げる
AMSやHACEと同様に標高を下げることはHAPEに対する唯一かつ最善の治療法です。HAPEを患っている登山者は、少なくとも1000 m標高を下げるか、症状が解消するまで下山するようするべきです。下山中は、身体への負担を極力避ける必要があり、自動車やヘリコプター、または動物による搬送を利用するか、自力で下山せざるを得ない場合は荷物を背負わずに下山することが必要です。なぜなら、身体的な負荷は肺の血管の圧力を上昇させてしまい、結果として脳浮腫を悪化させる可能性があるためです。
・酸素補給。
SpO2を90%以上に維持するのに十分な流量で、鼻カニューレまたはマスクを介して酸素を供給することは、患者をしっかり観察できる環境において下山に代わる適切な手段となりえます。目標となるSpO2はAMS/HACEと同様に90%以上に維持することを目標とすべきであり、市販の酸素ボンベの使用といった短期的な酸素療法は、HAPEの治療において役に立ちません。
次回へ続く・・・
急性高山病、高所脳浮腫、高所肺水腫の予防や治療方法について今回はお話しさせていただきました。次回は高山病予防でよく話題に上がるダイアモックス(アセタゾラミド)は本当に効果がるのか?をお話しさせていただきます。
引き続きJMMC 日本山岳医療協議会では山岳医療、野外医療の関わるガイドラインや論文を紹介してまいります!
(毎週金曜日更新)