山岳医療、野外救急の参考となるガイドラインや論文を紹介します
今回紹介するのは2024年にWilderness Medical Societyがまとめた野外における熱中症の予防・治療ガイドラインです。

原文リンクはこちら:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10806032241227924?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
このガイドラインでは、これまでに考えられている山岳地帯や野外での熱による疾病の対策、治療に関するガイドラインとなります。
【概要と病態生理】
日本ではいわゆる熱中症というものでよく知られている熱関連疾患ですが、熱関連疾患は熱中症だけにとどありません。
実際には熱関連疾患はそれぞれが独立した病態ではなく、連続した疾患の流れとなり、下記の5つの経過をたどります。
• 熱痙攣:運動中・運動後の不随意な筋収縮
• 熱浮腫:末梢血管拡張や体液貯留による四肢浮腫
• 熱失神:熱曝露に伴う一過性意識消失
• 熱疲労:脱力感、疲労、めまい、悪心、口渇などを呈する中等症
• 熱中症:深部体温 >40℃ と中枢神経障害(意識障害、痙攣、昏睡)を特徴とする重症病態
このうち熱中症は次の二つに分かれます。
• 労作性熱中症:激しい運動によって発症
• 非労作性熱中症:高温環境曝露によって発症
ただし、日常生活の中でも体温40℃を超えてしまうことがあるため、体温のみでの熱中症の判断は難しいとされています。
そもそも、熱関連疾患の病態生理はどのようなものでしょう?これは敗血症に近いとされています。具体的には、
• 全身性炎症反応
• 内皮障害
• 腸管透過性亢進
• エンドトキシン血症
• 凝固障害
• 細胞アポトーシスおよび壊死
が挙げられています。
加えて、高体温の程度とその持続時間が、死亡率や神経学的後遺症と関連すると言われています。
【予防】
予防にはいくつかありますが、主に暑熱順化、水分摂取が挙げられます。
◾️暑熱順化
暑熱順化とは人間の体が暑さに対応できるよう適応するために必要な期間です。その特徴は、
• 数日で適応開始
• 約7日で75–80%完成
• 1–2時間/日の暑熱下運動を7–14日継続することで完成
と言われており、暑熱順化は非常に大切です。
そして以下に示す水分摂取も重要なものとなります。
◾️水分補給
• 活動前に十分な水分状態を保つ
• 運動中は「喉の渇きに従って飲む」
• 体重減少2%以上を避ける
※今回のWMSガイドラインでは記載はありませんが、登山中の水分摂取は1日の行動時間(h)x体重(kg)x5(定数;5〜8)(ml/day)が水分摂取量の参考水分摂取量となります。
【熱関連疾患発症の増悪因子】
増悪因子としてはこのガイドラインでは以下の7つを挙げています。
• 肥満
• 低い身体能力
• 熱中症既往
• 脱水
• 発汗を妨げる薬剤
• 防護服、装備
• 高湿度環境
【初期対応】
何はともあれ迅速な冷却が重要です。
では、冷却方法として最も効果的なものはどれでしょう?ガイドラインでは冷水に浸すことがもっとも効果的であると提言しています。特徴と具体的な方法を示します。
◾️冷水に浸すことの特徴
• 最速の冷却速度
• 最良の予後
• 最もエビデンスが強い
方法:氷水浴や冷たい水を入れたボディバッグ利用
冷却速度:約0.15–0.22℃/分
目標体温:38.3–38.8℃
◾️冷水に浸すことができない場合
• 蒸発冷却(散水+送風)
• 対流冷却
が代替法となりますが、冷却速度は遅いといわれています。
一方で、以下は推奨されません。
• 頸部、腋窩、鼠径部のみへのアイスパック
• 冷タオルのみ
• 解熱薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)の使用
【病院治療目標】
病院での治療目標と気をつけるべき合併症をお伝えします。
◾️目標
• 急速冷却
• 呼吸循環管理
• 多臓器障害対応
◾️合併症
• 横紋筋融解
• 急性腎障害
• 肝障害
• DIC
• ショック
• 腸管虚血
• 敗血症
【結論】
◎熱中症は緊急疾患である
◎全身を冷水に漬ける方法が標準治療である
◎高体温持続時間の短縮が生命予後を左右する
◎熱順化、水分管理、環境管理が極めて重要
◎従来広く行われてきた局所冷却法は不十分である
山岳医療、野外医療では資源が限られていること、場所の問題などがあり、上記の対策や治療が行えないことがあります。その中で現実的に選択可能な方法を考えていくことが大切と考えます。
今回の紹介の中でお伝えでいなかった部分も多いため、一度ガイドライン本文を読んでいただくことをお勧めします。
引き続きJMMC 日本山岳医療協議会では山岳医療、野外医療の関わるガイドラインや論文を紹介してまいります!
(毎週金曜日更新)