
山岳医療、野外救急の参考となるガイドラインや論文を紹介します
原文リンクはこちら:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10806032241227460?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
このガイドラインでは、溺水の予防や救助、院外初期対応、搬送判断、低体温管理をはじめとする救急管理の内容となります。
そもそも溺水とはどのような状況をさすのでしょうか?これについては2002年に開催されたWorld Congress on Drowningで定義されており、「水に浸かったり、水に沈むことによって呼吸障害を生じる状況(過程)」とされています。
論文によると世界では毎年、約23.6万人が溺水が原因で死亡していると推定されています。
【溺水の疫学・リスクが高いとされている人々】
溺水のリスクが最も高い年齢層は1〜4歳の小児であり、その主な原因は不慮の水中への転落です。その次にリスクが高いのは、プールなどの人工的な水域ではなく、川や湖、沼などの野外環境での溺水であり、その中でも思春期および若年成人が多いとされています。実際、米国では2005年から2014年にかけて年間平均4012件の溺水死亡が発生し、加えて658件の船に関係する溺水死亡が加わっています。近年、溺水の発生率は徐々に減少しているものの、溺水は依然として1〜4歳児における外傷関連死亡の主要原因となっています。
【予防が大切】
溺水予防は、溺水者の救助や治療よりも、はるかに多くの命を救う可能性を持っています。水辺や水中での活動についての危険予知とリスクアセスメントに始まり、どのくらい泳げるかの能力評価、ライフジャケットなどの活用と、溺水リスクを高める医学的疾患についてのスクリーニングがあります。日常生活と関係する部分としては、アルコールを摂取してからの水辺、水中活動はリスク要因となりますし、医学的疾患では、てんかん、循環器疾患、不整脈がリスクを高める可能性があります。
【救助活動】
救助活動においては、救助者自身の安全が最優先です。水環境下での救助には、特別な技能、訓練、そして十分な身体的能力(体力)が必要とされます。水環境といってもその特徴はさまざまであり、プール、湖、河川、海洋、急流、氷など、それぞれの状況に応じて異なる装備や専門的救助訓練が必要となります。
水中救助技術の有効性を客観的に評価した研究は少なく、文献の多くは、執筆者や組織の方針・経験に基づいているとされています。一つの報告をご紹介しますと、訓練を受けていない人が水中救助を試みた結果、救助者自身が致死的または非致死的溺水に至る例は少なくなく、トルコでは3年間に114人の救助者死亡が報告されています。
溺水に対する救助訓練を受けていない人による救助は、入水せずに行うことが大切です。具体的には、パドルや枝を差し伸べる、ロープ、浮き具、クーラーボックスなど、浮く物を投げることとで要救助者に浮力を与えること、もしくは、ボート、カヌー、パドルボードで接近する方法が推奨されています。
各種の水難救助器材(例:レスキューチューブ、レスキュー缶、スローバッグ、ライフリングなど)の有効性に関する研究は少なく、これらの器材を適切かつ効果的に使用するためには、その機能に関する基本的知識と定期的な訓練が必要です。
【初期救助対応】
溺水患者における病態整理は脳低酸素状態であり、その迅速な改善が溺水蘇生の第一目標です。本ガイドラインにおいて、水中蘇生(in-water resuscitation: IWR)について述べていますが、この水中蘇生(IWR)とは、まだ水中にいる溺水患者に対して換気を行おうとする試みのことを言います。要救助者と救助者がともに水中にいる状態では、十分な胸骨圧迫を行うことは不可能であるため、胸骨圧迫は実施すべきではないとされています。なお、水中蘇生(IWR)の成功例は1976年に初めて報告され、1980年にはマネキンを用いた実施可能性研究が報告されています。しかし、患者転帰の改善を示した最初の臨床研究が発表されたのは2004年でありました。この水中蘇生(IWR)に関する転帰データは、ブラジルにおけるライフガード救助の単一の後ろ向き研究に基づいており、水中蘇生(IWR)を受けた要救助者では生存率および神経学的転帰が有意に改善したことが示されています。この研究に記載された水中蘇生(IWR)救助は、海洋環境において訓練を受けた専門ライフガードによって行われ、要救助者を波が落ち着いている場所まで移動させ、ヘリコプター到着を待つ間に口対口換気を実施していました。その後の研究の多くはマネキンを用いて研究のために管理された水環境で実施されており、水中蘇生(IWR)は全体の救助時間、主観的な救助困難度、救助者の潜水回数、水の誤嚥を増加させるといわれています。これらの研究から、水中蘇生(IWR)は、訓練を受けた救助者が、自身の安全性を確保し、装備、岸までの距離を考慮して有益と判断した場合に実施を検討して良いと考えられますが、救助者の安全が第一であり、いつでも中止すべきとされています。
さらに、ボート上でCPRを実施した場合の患者転帰を直接評価した研究は存在しないが、多くの研究でその実施可能性が言われています。したがって、救助者の安全が確保できるのであれば、ボート上でもCPRの実施は推奨されています。
【初期蘇生活動】
心肺蘇生法(CPR)と気道確保が最優先となります。
溺水の病態生理において低酸素血症がその中心となります。そのため、初期蘇生では、まず気道の確保と、可能な限り高濃度の酸素を投与することが重要とされます。近年の心肺蘇生(CPR)では、一般救助者向けの改訂として、胸骨圧迫のみのCPR(compression-only CPR)が、気道確保より優先されています。しかし、溺水蘇生においては胸骨圧迫のみのCPRは、利益がほとんどないか、全くない可能性が高く、人工呼吸と胸骨圧迫の両方を行うことが重要です。乳児および小児に対するバイスタンダーCPRでも、どちらを先に開始するかに関わらず、胸骨圧迫と換気の両方を行うことが必要です。人工呼吸に必要な気道確保は特に重要であり初期蘇生において気道管理が軽視されると、低酸素状態が持続し、生存率低下および神経学的所見の悪化につながります。また、不適切な人工呼吸は、処置の遅れや胃の中への送気、誤嚥を引き起こす可能性があります。
【蘇生後管理】
換気及び酸素化が重要となります。
人工呼吸管理(Mechanical Ventilation)
溺水患者に対する院外または院内での人工呼吸管理について比較した文献はありません。溺水後の肺障害は急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome)に類似していることから、急性呼吸窮迫症候群に対する治療と同様の方法を用いるのが適切と言われています。
以下、専門的な設定となりますが、人工呼吸器の設定を
・一回換気量(VT): 6〜8 mL/kg で開始
・プラトー圧: 30 mmHg 未満に維持。一回換気量および呼吸回数を調整すること
・動脈血酸素分圧(PaO2): 55〜80 mmHg(SpO2 89〜95%)に維持。呼気終末陽圧(PEEP)および吸入酸素濃度(FiO2)を調整すること。
一方、人工呼吸管理を必要とする多くの患者では、低酸素性脳症も合併していると考えられるため、生存率に対する人工呼吸管理単独の効果を評価することは困難であるとされています。
【蘇生中止の判断】
蘇生中止の判断は難しいものの、
・水温 >6℃:30分以上の没水
・水温 <6℃:90分以上の没水
では神経学的予後は不良であり、心肺蘇生(CPR)を30分以上継続しても自己心拍再開(ROSC)しない場合は蘇生中止を検討する必要があるとされています。
【結論】
◎水環境での活動に対するリスク評価、予防
◎脳低酸素をできるだけ早く改善すること
◎迅速に水環境から引き上げる
◎迅速な気道確保、換気、人工呼吸の実施
山岳医療、野外医療では資源が限られていること、場所の問題などがあり、上記の対策や治療が行えないことがあります。その中で現実的に選択可能な方法を考えていくことが大切と考えます。
今回の紹介の中でお伝えできなかった部分も多いため、一度ガイドライン本文を読んでいただくことをお勧めします。
引き続きJMMC 日本山岳医療協議会では山岳医療、野外医療に関わるガイドラインや論文を紹介してまいります!
(毎週金曜日更新)