
原文リンクはこちら: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26433731/
このガイドラインでは、クサリヘビ科マムシ亜科の蛇に対する野外での対応についてアメリカとカナダのガイドラインとなります。
このガイドラインでは北米のマムシにおける咬傷の予防と治療に関してエビデンスに基づき解説しています。なお、日本のマムシについても北米のマムシと同じクサリヘビ科マムシ亜科に属しています。ただし、マムシ以外の他の蛇族では対応が異なる場合があるため、たとえばヤマカガシはユウダ科ヤマカガシ属となり、対応が異なります。
ではこのガイドラインを見ていきましょう。
【ヘビに噛まれたらすること】
ヘビに咬まれた直後の優先事項は、同じ患者や他の人が再び咬まれないようにすることです。患者はヘビから離れるべきです。安全な距離(ヘビの全長以上の距離)から離れて、蛇を撮影しておくことで、ヘビの種類を特定し治療に役立つ可能性があります。咬んだヘビが毒蛇かどうかは、単なる表面の傷・創傷処置で済むか、もしくは緊急性のある搬送やより専門的な治療が必要になるかの分かれ目になります。
【現場での一次処置】
仮に重篤な症状を引き起こすヘビであったとしても、咬傷の転帰を現場での処置によって大きく変えることはできません。また、現場での応急処置によって、抗毒素を投与できる医療機関への搬送が遅れるようなことがあってはなりません。また、毒の注入量および重症度を現場で迅速かつ確実に判断することは困難です。したがって、毒蛇による咬傷はすべて緊急事態と見なし、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
搬送を待つ間にできることととして、咬傷を受けた日時を、記録しておくことです。腫れの程度を判断するために、咬傷部位の上下で噛まれた腕の周囲の長さ(つまり腕の太さ)を測定します。また、比較のために、赤く腫れた部分(紅斑)の範囲として辺縁に印を付けておきます。なお、腕が腫れることによる締め付けを防ぐため、咬傷部位付近の装飾品(リストバンドやリング、締め付けの強い衣類は取り外すか、切断して除去してください。
蛇咬傷への対応は、他の刺し傷、切り傷と同様に行うべきです。搬送を遅らせることなく、標準的な方法(石鹸と流水、消毒液、またはそれらの併用)ですばやく傷口を洗浄し、保護するために綺麗な布やガーゼで覆います。
【口で毒を吸い出すこと】推奨しない!
ある研究において、ヒトを模したモデル(「模擬毒」使用モデル)を用いた場合、口腔内吸引や機械的吸引による毒の除去は有効ではなく、吸引された毒の量は全体の0.04%~2%にとどまり、臨床的に有意な量ではなかったことが示されています。さらに、口腔内吸引は傷口に細菌を侵入させ、二次感染や膿瘍形成のリスクを高める可能性があります。加えて、口腔内吸引は、口腔粘膜からの毒の吸収により、処置を行う者に危険を及ぼす恐れもあります。
【機械的吸引】推奨しない!
実験モデルにおいて、機械的吸引装置は創傷周囲の組織に装置の形状に沿った局所的な損傷を増大させ、組織壊死や脱落を引き起こし、その結果生じた組織欠損によって治癒が数週間遅延することが示されています。
【凍結療法や冷却】推奨しない!
氷やその他の冷却法を用いた凍結療法は、ヘビ毒の拡散を抑えると考えられていますが、その有効性は証明されておらず、場合によっては局所的な組織損傷を悪化させる恐れがあります。
【駆血帯を使用しての圧迫】推奨しない!
駆血帯(静脈または動脈を遮断するもの)の使用は、虚血や壊疽を招く恐れがあり、その結果、切断に至る頻度や抗毒素の必要性が高まる可能性があります。また、駆血帯の使用が患者のその後の経過を改善することを示した研究結果はこれまでに存在しません。
【包帯による圧迫】推奨しない!
弾性包帯や自己粘着性包帯を用いた圧迫包帯法に関する臨床的エビデンスは限られており、マムシによる咬傷に対しては、その有効性は認められていません。しかし、圧迫包帯法は、リンパ液や静脈血の流れを抑制することで、血流および毒液が全身循環へ移行するのを遅らせると考えられています。致死量の毒液を用いたブタの実験モデルでは、咬傷後に圧迫固定を行うことで組織の圧(コンパートメント内圧)が上昇し、死亡までの時間が延長したことが示されています。圧迫包帯法による毒液の封じ込めが支持されるのは、神経毒を持つヘビによる生命を脅かす咬傷を治療する場合に限られます。さらに、医師や一般人が圧迫包帯を適切に適用できることは稀であるとする研究が2件あり、別の研究では、訓練を受けた医療従事者であっても、模擬的な咬傷の症例において効果的な固定を行うことができなかったことが示されています。
【マムシ咬傷による症状】
局所症状としては、咬傷部位に著明な紅斑、腫脹、圧痛を引き起こし、それらは噛まれた部分の中枢側および末梢側へと拡大する可能性があります。局所組織への影響は、マムシの咬傷において最も頻繁に見られる身体的徴候であり、医学的に重大な咬傷を負った患者の90%以上に認められます。一方、全身症状としては低血圧、出血、血管性浮腫、嘔吐、神経毒性などです。血液への影響は複雑であり、フィブリノゲンの分解や、血小板凝集または血小板破壊などが含まれますが、医学的に重大な出血を来す患者は少数であり、点状出血、斑状出血、歯肉出血、鼻出血、網膜出血をきたします。ただし、重篤な出血(頭蓋内出血や腹腔内出血など)の徴候がないか、医療機関に搬送後は注意深く観察する必要があります。嘔吐は恐怖や不安に対する自律神経反応として生じることもあり、全身症状のひとつかどうかの判断を誤らせることもあります。
【結論】
マムシの咬傷は重篤な合併症や死亡を引き起こす可能性があり、迅速かつエビデンスに基づいた治療プロトコルに従って治療する必要があります。また、局所的な組織損傷や腫脹を引き起こすことが多く、全身症状(凝固障害、神経毒性、低血圧など)を引き起こす可能性がありますが、抗毒素の迅速な投与によりその進行を阻止できます。
今回の紹介の中でお伝えできなかった部分も多いため、一度ガイドライン本文を読んでいただくことをお勧めします。
引き続きJMMC 日本山岳医療協議会では山岳医療、野外医療の関わるガイドラインや論文を紹介してまいります!
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