山岳医療、野外救急の参考となるガイドラインや論文を紹介します
今回紹介するのは2024年にWilderness Medical Societyがまとめた脊椎損傷保護の野外ガイドラインです。

このガイドラインでは、これまでに考えられている脊椎固定について検証を行っています
Wilderness Medical Societyの2024最新ガイドラインでは、野外での脊椎損傷管理において、従来の固定(immobilization)を目的とする考え方から転換し、脊髄・脊柱の保護という最終目標を重視する「目的志向型アプローチ」を提唱しています。
これまでの脊椎損傷管理エビデンスでは、これまで考えられている頸椎カラーやバックボードによる固定化(Spinal Immobilization)は推奨されず、脊柱運動制限(Spinal Motion Restriction)を中心とした管理が推奨されています。
一部日本語と要約し、要約した内容をお伝えします。
これまでの報告では、米国における脊髄損傷(SCI)の発生率は年間100万人あたり54例と推定されており、これは外傷による入院患者全体の約3%を占めるとされている。米国のNational SCI Statistical Centerによると、受傷原因の38%は交通事故、32%は転倒、14%は暴力によるものでした。
また、ノルウェーの疫学研究では、頸椎骨折の発生率は年間10万人あたり12例ででした。そのうち外科手術を要した症例は年間10万人あたり3例です。
過去の研究では、脊髄損傷患者の2~10%において、初回の神経学的評価後に神経症状の悪化(上行性脊髄損傷:ascending SCI)が認められることが示されています。
その中で神経学的悪化に関連する要因としては、牽引や固定化の開始および気管挿管、持続する低血圧、さらに椎骨動脈損傷が挙げられています。
一方で、病院前救護の有効性や、固定・搬送方法そのものが神経学的悪化と関連していることは示されていません。
病院外で適切に固定されなかったため神経学的悪化が起こったとされる症例報告の多くは、実際には診断の遅れや病院内治療中の悪化が原因と言われています。
過去30年間で脊髄損傷患者の神経学的重症度は改善していますが、それをEMSや脊椎固定の効果と結び付ける直接的な証拠はありません。
このような背景より、Wilderness Medical Societyの2024最新ガイドラインでは、現時点での科学的根拠は乏しく、またその質も高くないため、野外環境において脊椎損傷が疑われる患者を固定化(immobilization)するという従来の考え方を支持するには不十分とされています。
【まとめ】
山岳医療、野外救急において、脊椎損傷を疑う傷病者については、脊椎を「固定すること」が目的ではなく、「脊髄・脊柱を守ること」が目的であり、そのためには頸椎を堅固に固定するよりも、脊柱運動制限を中心とした柔軟な管理が望ましいとされます。